「うつくしい元素の本がほしい、うつくしい理系の本がほしい」
黒いボンネットと黒いロングのロリィタ服。銀髪で、顔には表情も顔も見せないための布。
九嶋の雇い主、通称『標本屋さん』である。
標本屋さんは人嫌いの人外で、ネクロフィリアだ。
死を愛し、「停止」を好む。しかしながら本質自体は博愛主義で平和主義。
偏愛主義で戦闘的なものを好む九嶋とは違うところもあるが、程よい無関心さから九嶋は標本にされずに済んでいる。
標本屋さんは山奥に住み、名の通り標本屋を生業としている。人嫌いなせいで家から滅多に出ない。全てを九嶋に押し付けて、作品作りに没頭している。
九嶋は標本屋さんの作った作品を抱え、人里に降りてきてはせっせと販売している。
販売した作品に惚れ込み、山奥を訪ねてくる人もいる。対応は九嶋がしている。標本屋さんはマジで人間が嫌いだ。そのせいでいつも九嶋が何もかもをやっている。人使いも荒い。
しかし、標本屋さんは本気だ。うつくしいものを愛し、少しでも好きなものと一緒にいたい純粋さが歪にも見えるネクロフィリアの本質である。ものすごく狂っていて、ものすごく真っ直ぐなのである。
そんな雇い主のことが嫌いじゃないから、九嶋もうつくしい作品作りのお手伝いをするのである。